恐山菩提寺は、滋賀県の比叡山、和歌山県の高野山と並び日本三大霊山のひとつです。古くから信仰の対象となり、おもに死者の供養の地として「人は死ねばお山さいぐ」「恐山に行けば死者に会える」と故人を想う参拝者が全国から集まります。
青森県出身の私もそういう話を幼い頃に祖父母から聞いたことがあり、「恐山は幽霊が出る恐い場所」との理解でした。大人になってからは、マイカーで気軽にドライブできるようになり、恐山にも何度か立ち寄ったことがあります。幼い頃の偏見?は払拭されたものの、広がる荒涼とした現実離れした光景と、様々な想いを抱いて訪れたであろう参拝者の表情を見ると、無宗教の私ですらセンシティブな雰囲気を感じ取れます。
そして、そんな恐山の境内には実は温泉があり、これがまたかなりの極上温泉かつ特殊な雰囲気なのです。今回は2014年7月の恐山大祭のときに訪問した日本一の霊場にある特別な霊泉「恐山温泉」を紹介したいと思います!
日本三大霊山 恐山菩提寺への道
むつ市中心街を出発すると、ところどころにある道しるべの地蔵尊の導きに従って県道4号線を進み、くねくねとまがりくねった参道(山道)をマイカーで登っていきます。途中、恐山冷水という湧き水がありました。若返りの水ということですが、純粋な山の水なのでお腹が弱い人は飲まない方が身のためです。このあたりを通る死者も飲んでいくそうです。
参道を車で30分ぐらい登ってきたでしょうか。三途の川が現れました。この赤い太鼓橋を渡ると「あの世」です。渡っちゃいましたが大丈夫なのかな? ちなみに帰りは橋の上で振り返ってはいけません…大変なことになります…
三途の川を渡ると、奪衣婆(だつえば)と懸衣翁(けんねおう)がいました。奪衣婆が亡者の衣を脱がせ、懸衣翁がその衣を衣領樹の枝にかけ、枝のしなりで罪の重さが計られるそうです。この後、閻魔様に地獄か極楽か行先を言い渡されます。
マイカーを駐車場に停めて入山の受付をします。霊場アイスって冷えそう…
境内に入ると立派な山門がありました。守護神の仁王像がにらみを利かせています。
長い石畳の参道を奥まで進むと曹洞宗・恐山菩提寺があります。本尊・延命地蔵菩薩を参拝しました。
広場では死者と対話ができる「イタコの口寄せ」に長い待ち行列ができています。故人と話がしたくて、すがる想いで来ている人もいるのでしょう。漫画シャーマンキングのヒロイン・恐山アンナは、このイタコです。恐山アンナ聖地巡礼みたいな方もいらっしゃるのかな?(^^)
イタコは大祭のときしかお店がありませんので注意してください。かつては恐山観光の目玉のひとつでしたが、イタコはちまたの中小企業と同じく後継者問題に直面しているそうです。ちなみにこのイタコという霊媒師業(シャーマン)は個人事業主で、恐山とはまったく関係のない方々ですので、当たったとか当たらないとかナンセンスな苦情を恐山菩提寺に言っても無駄ですので悪しからず。
恐山菩提寺の敷地には、宇曾利山湖方向に荒涼とした地獄の風景が広がっています。至る所で熱気が感じられ、噴気が上がり、火山性ガスによる強い硫黄臭が漂っています。いかにも良質な温泉が湧きそうな自然環境です。
私のスマホのカメラが一時的に写らなくなりました。恐山はこういう電子機器の異常がよく起こることで有名で、「心霊現象だ」という人がいますが、これは火山性ガスの影響です(キッパリ!)。
恐山温泉
旅のお目当ての恐山温泉「薬師の湯(男女交代制だそうです)」という湯小屋を見つけました。他に「古滝(こたき)の湯(男性)」「冷抜(ひえ)の湯(女性)」「花染(はなぞめ)の湯(混浴)」と、計4つの個性的な湯小屋があり参拝者は無料で入浴出来ます。本来は身を清めるために、境内を参拝する前に入浴しなければならないとのことです。それは知らなかったなぁ。
この恐山温泉の湯小屋は、うしろの百太郎でも紹介されている心霊スポットです (^^;
たまたま貸し切りみたいなので、さっそくお湯をいただきましょう!
いや~、いい温泉! 熱めのいい湯加減! すばらしいです!
ここはあの世。地獄の中にありますが温泉は極楽です!
霊泉の泉質は含鉄・硫黄ーナトリウムー塩化物泉。もちろん源泉かけ流し。硫黄の香りが強く、青みがかった透明、湯の花が舞っていて肌にやさしいお湯です。参拝客がふつうに窓から覗いていくので、ちょっとはずかしかったりします。元気なおばあさんとかふつうに平気で覗いていく「わげーひと、はいってらじゃー、ひゃっひゃっひゃ」って…幽霊じゃないですよね?
地獄めぐり
温泉を堪能した後、地獄めぐりをしてみました。1周3㎞でゆっくり周ると1時間弱かかります。はじめは賽の河原が広がります。風車がカラカラともの悲しい…火山性ガスの引火の危険があるため、線香のかわりに風車を供えるんだそうです。生花も禁止です。
歩きながら無限地獄、血の池地獄などを見学して、いろいろな地獄を疑似体験していきます。
八角堂というお堂がありますが、中には多くの故人の衣服や生前のお気に入りの私物が収められています。お堂の中に入ると、私は胸が締め付けられ何とも言えない鎮痛なイメージが伝わってきて、いたたまれませんでした。
大自然ですので、まむしに注意!
宇曾利山湖半の極楽浜
地獄の中をだいぶ歩いたでしょうか、先に極楽が見えてきました。
極楽に近づいてくると景観が変化してきます。
あれが極楽浜…
エメラルドグリーンの宇曾利山湖畔のビーチに着きました。すごく透明な湖水、真っ白な砂浜、誰かに捧げられた供物、ひとりたたずむ老人…極楽ということですが、これはこれでなんだか寂しい空気が漂っています…
それでは私もそろそろ現世に戻りましょうか。ちゃんと戻れるのかな?
宿泊はホテル・ニューー薬研
この日、恐山の近くにあるホテル・ニュー薬研に宿泊しました。恐山観光の拠点として多くの方が利用する温泉ホテルです。
泉質はアルカリ性単純泉(緩和低張性高温泉)。お湯がさらっとしていて湯疲れしません。湯量が豊富でざぶざぶ湯船に投入されていて悪くない印象です。
夕食を撮ってみました。下北の山と海の味にこだわっているとのこと。
さいごに
下北半島は、恐山温泉、薬研温泉のほかに井上靖の小説「海峡」で知られる下風呂温泉という一流の秘湯もあり、温泉好きにはたまらない地です! 恐山温泉も、4つの湯小屋、宿坊吉祥閣の大浴場それぞれに異なる源泉ということなので、いつか宿坊吉祥閣に宿泊しておつとめも体験しながら温泉めぐりをしてみたいです。
恐山観光では死生観のようなものを考えさせられました。忙しい普段の生活の中では考えることのない領域に否応なく対峙させてくれる貴重な場所でした。ちなみに、死後の世界はあるかと問われれば、私は「わかりません」と答えます。正直なところ「ある」でも「ない」でも不正解のような気がします。そういうところはあいまいにしておくのがいいと思います。
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